梅こらむ

2015/10/29

丸ごと一途に、あんこの魅力「上品」の美味しさの秘密

ひとくち頬張った瞬間、心から感動して笑顔になれる。そんな圧倒的な美味しさを目指して、和菓子屋の梅林堂があえて挑む洋菓子創り。現場では、熱い志を持つ職人たちが日々奮闘しています。

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妥協しないからこそ生まれる、真の美味しさ

「ショートケーキを購入されるお客様は、苺がお好きな方が多いはず。そこでスポンジに挟む苺は、切る角度を綿密に計算して、大きく食べ応えのある形にこだわりました。一般的な薄切り苺とは全く違う、贅沢な味わいです」。洋菓子部門を統括する堀越がそう語るのは、梅林堂のケーキの中でも絶大な人気を誇る、“ざく切り苺のショートケーキ”。

あんこだけで創るお菓子だから、
小豆と砂糖が命です

今の時代、あんこに日常的に馴染みが無い方もいらっしゃるはず。そういった方でも、一口で上質だとわかる小豆の味わいにするには、素材への徹底的なこだわりが欠かせません。

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最高のあんこは、最高の小豆から創られます。全国から集めた数十種類の小豆から職人が選び抜いたのは、「大光珠」という最高級品種。素材の良さに左右される粒あんにもぴったりで、炊き上げた後も、濃厚な風味や食感の良い粒感が綺麗に残ります。

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そして、結晶が大きいほど不純物が少ないとされる砂糖。上品では、ざらめよりも結晶が大きい「鬼ざら糖」を使用しています。雑味が少なく、純粋な甘みで小豆の美味しさを引き立てます。

あんことあんこ。
全く異なる2つの美味しさ

一、ふっくら艶やかな粒あんづくり
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目指すのは、粒感が美しく、風味も濃厚な粒あんです。

まず、大光珠に水を含ませてふっくらさせます。炊く何時間前に水を入れるのか、そして水温は何度にするのか。何十回も試行錯誤を重ねた開発担当の山崎は、「炊いた後の味が最も良くなり、かつ、水を含んだ小豆がふくらんで容器の中に隙間がなくなるタイミングを探しました。容器にきっちりと豆が入ると、炊いているときに豆が踊らないので、豆同士がぶつかって粒が壊れるのを防げるからです」と話します。

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ふっくらした豆は、そのまま“前煮”と呼ばれる事前に火を通す工程で、苦みが含まれる渋を抜きます。この渋は、実は小豆の風味でもあるため、抜きすぎは禁物です。

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その後、いよいよ“本炊き”です。ふっくらさせるために圧力をかけて、でもやわらかくなりすぎないように、そして風味が飛んでしまわないように短時間で炊きます。

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炊きあがったら、鬼ざら糖でつくった蜜を入れる“蜜漬け”をした後、最後の炊き上げとなります。蜜漬けをすると、小豆が糖分と一緒に味や香り、渋の旨味も吸い込んでいくので、最後まで小豆の味がしっかり残る美味しいあんこになります。広い世代の方に楽しんでいただけるように、食べやすい上品な甘さに仕上げました。

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ちなみに、山崎が最も試作を重ねたのが、最後に粒あんと混ぜる寒天の量。上品を食べても寒天っぽさは全く感じませんが、陰ながら完成後の形を固定する大切な役割を担っています。
「粒あんなので、当然、ごろっとした粒感を美しく残したい。そのためには寒天をしっかり入れるのが有効なのですが、そうすると味が薄くなってしまう。とはいえ寒天が少ないと、豆がつぶれてしまうばかりか、中のでんぶんが出てきて味も変わってしまうんです。そのバランスが難しかったですね」(山崎)

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他にも、美味しさを最大限に引き出すために、山崎が特に気をつけたのは温度。「あんこは、冷やしすぎると抜けた渋が沈着したり、豆が固くなったり、さらには美味しさを左右する香りも抜けてしまいます。だから炊き上げる前に渋を抜いて水を入れ替えるときも、必ず50度くらいのお湯を入れています。この50度というのが、香りがふわ〜っとやわらかくなるいい塩梅。炊き上げた後も、冷やしすぎずに50度くらいにキープするんですよ」(山崎)
こういった、水や火の細かな調整を半年間繰り返し、最高の粒あんを創り上げました。

二、しっとり軽やかな村雨づくり
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一方、村雨生地は、そぼろの美しさや空気感、口溶けの良さが出るよう尽力しました。

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本来ならば、こしあんは小豆を煮てつぶした“生あん”にたっぷりの水と砂糖を合わせ、ぼこぼこ煮詰めて炊き上げます。しかし、上品で使っているこしあんは、なんと炊き上げるときに水を一切入れていません。
その理由を山崎はこう語ります。「水を使わない方が、村雨のほわほわっとした空気感が出るうえに、生あんの味がしっかり残るんです。逆に水を入れると粘りが出て、空気感のない締まったあんになります。だから、生あんが持っている水分だけで炊いて、砂糖は少しずつ足しながら短時間で仕上げています。これを“火取りあん”といいます」。

出来上がったこしあんは、大きな玉にしてから職人が手作業で裏ごしします。そうしてできた、村雨のもとになる“そぼろ”を枠全体に箸で広げてゆきます。

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「裏ごしする前に玉にしておくのには、大切な意味があります。玉になったものを手で裏ごし器にぐっと押すと、そぼろがにょろにょろっと長く出てくるんです。長ければ長いほど空気を含むので、生地になったときにふわっとして美味しい村雨になります。その後、型に広げるときに箸を使うのも、他の道具に比べて最もやさしく扱うことができるから。綺麗なそぼろを崩さないようにして型に整えているんです」(山崎)
型に広げたら、模様や空気感を損なわないように軽くおさえて固めて、蒸し上げます。蒸す時は、ふわっと浮かせるように高温で。パサパサにならないように、短時間で仕上げます。

くるくる巻いて、まん丸に
美味しい形を創る、職人の技

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村雨生地が蒸し上がったら、すぐに保温しておいた粒あんをのばして巻いてゆきます。
「この“巻く”というのが美味しさの大きなポイントなんです。巻くのって、手作業ですごく手間がかかるし、高度な技術も必要になります。いっそ、ミルフィーユみたいに層にして機械で作れば簡単で安く作れるのに、って思えるんですけど、それだと味が変わってしまう。巻いた方が圧倒的に美味しいんです。なぜなら、かじる度に村雨と粒あんの比率や、舌に当たる部分が変わって、いろんな美味しさを楽しめるからです。中心部分はより水分を吸ってしっとりしているし、巻いたことによってかかる圧力も外側とは違うから、食感も微妙に変わる。その複雑な変化で美味しさが増すんです。これが層になっていると、全て均一になっちゃいますから」(山崎)

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生地がパサつかないように、そして粒あんが冷めてしまわないように、作業は迅速に。熟練の職人が全神経を集中させて、流れるような手つきで美しく巻く様子は圧巻です。ここでは、村雨生地と粒あんの比率もとても重要です。
「村雨生地が多い方が、口溶けがよくなり今の時代の好みに合う食感になりますが、粒あんを減らしすぎると伸ばすときに粒が潰れてしまうし、風味や味わいも減ってしまいます。その絶妙なバランスをとるのに、粒あんの量を数%単位で緻密に調整してきました」(山崎)

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巻き終わった上品は、木の枠に入れて半パイプ型のふたをしたら、ひっくり返します。この半パイプ型の道具は、山崎が開発したオリジナルです。普通、巻きもののお菓子は平らなところに置いておくと、重力で下面が扁平になり、全体の形も楕円になってしまいます。しかし上品では、正円の形を保つことにこだわり、この道具にたどり着きました。
「本当に美味しい和菓子を創るなら、形も妥協できません。楕円になるということは、下の方は潰れて食感が変わるということ。それは頂けないので、様々な道具で試行錯誤しました。この半パイプ型の容器は、従来の和菓子の道具にはない、新しいチャレンジです。でも元はといえば、箸や裏ごし器だって誰かが最初にチャレンジした方法。だから現代の私たちも、新しいことをどんどん試して美味しい和菓子を開発していく。それがすごく大切だと思うんです」(山崎)
型で固定した上品はそのまま冷やし、寒天が固まって形が落ち着いたらカットして包装します。

なつかしくて新しい美味しさ
上品(じょうぼん)を、ぜひご賞味ください

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いかがでしょうか。繊細なそぼろ模様の村雨生地にぴったり寄り添う、丸く美しい小豆が際立つ粒あん。そこには、あんこだけで創ったとは思えないほど豊かな風味と複雑な食感、深い味わいがあります。昔からの和菓子ファンの方はもちろん、若い方にも必ず気に入っていただける美味しさ。この長い研究開発の成果と上質な素材、そして匠の技を結集させた梅林堂の大自信作を、ぜひお楽しみください。

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